inamaのブログ

細密鉛筆画を描いてます。

湖の上に立つ女

昔読んだ小説でとても怖くて印象深い小説がありました。それは山田太一の「遠くの声を捜して」という小説です。ある晩、中年男が眠りにつこうとする時何処からともなく女の声で「アナタハダレナノ」と話しかけてきました。それからというもの毎日同じ時刻に女が話しかけてくるのです。そして二人は毎晩会話をするようになりました。会話といっても別に難しい話をする分けでもなく、ごくありふれた世間話です。二人は次第に意気投合して仲を深めていきました。仲良くなれば、当然相手の事が気になります。今どこに居るのか?どうやって話かけているのか?どんな姿をしているのか?男は無性に相手の事が気になりだし、根掘り葉掘り聞き出そうとするのですが、少しでも相手の身辺に触れるような事を尋ねると、女はたちどころに口をつぐんでしまい、何も話さなくなります。それどころか一週間二週間、または何か月も話しかけて来なくなりました。男は急に寂しくなりもう二度と女の身辺に関わる事は尋ねないようにしようと思うようになりました。私はここまで読み進めてみて女が話せないのは、男は夢を見ていて夢の中で女に話しかけているからだろうと思いました。多分この小説のおちは、そんな感じだろうと思いました。所がそうとは思えないような事が男の日常生活に次第に起こり始めるのです。私は何だか急にこの女が怖くなってきました。毎晩話しかけてくる女、一体何を考えているんんだろう?何の目的で?私は、女の心の中が全く読めないので不気味で怖いのです。それからというもの私は始終鳥肌が立ちっぱなしで小説を読み進めました。ところが主人公の男の方は、というともう女に夢中で次第に居ても立っても居られなくなりました。男は例え女から永遠に話しかけて来なくなっても構わない会いたいその思いは募るばかりでした。男は思い切って女に「会ってくれませんか?」と尋ねました。当然断れるだろうと思いきや、なんと女は承知してくれたのです。私はついに女の正体が分かる時が来た。もうハラハラドキドキしながら読み進めました。そして遂に男が女と会った瞬間、うわわわっ時が止まったような感覚、私は背筋が凍り付きました。なんだなんだそうきたか。全く予想だにしない展開に作者の並々ならぬ才能を感じました。私はこの小説本当に面白くて一日で読み終えました。そしてすごく怖い思いをしました。別に化け物がでたり死人がでたりするシーンは、全くないのになぜか凄く怖いんです。人間って正体の分からないもの、何考えているか分からない物の存在の方が怖くありませんか?よくホラー映画なんかでは、序盤中盤の得体の知れない何かがじわじわ近づいてくるほうが、ドキドキするけど、終盤になってハッキリとその姿が見えてしまうと、なーんだという気持ちになった事ありませんか?私はそんな思いで下図の絵を描いてみました。真夜中に湖の上にアクロバティックなポーズで女が立っていたらさぞかし怖いだろうと。しかし結果いまいちでした。

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